エックス線(X線)・放射線に関すること(2)特性X線(蛍光X線)・制動X線の発生原理

コラム

エックス線(X線)・放射線に関すること

(2)特性X線(蛍光X線)・制動X線の発生原理

[原子の構造]

 

物質の最小単位である原子の中では、正の電荷をもつ陽子と電気的に中性な粒子である中性子からなる原子核の周りを負の電荷をもつ電子が回っています。一般的に原子では陽子と電子の数は等しく、陽子または電子の数が周期表でいう原子番号になります。電子は原子核に近い順からK殻、L殻、M殻...という軌道上で運動しています。各軌道に入る最大の電子数は軌道の順番を原子核に近い順からnとすると2×(nの2乗)と決まっています。

[エネルギー準位、励起および電離]

 

各電子殻にある電子は殻ごとに決まった力学的エネルギーを持っています。内側の電子殻ほどエネルギーが低い[実際は力学的エネルギーは無限遠を基準とした-Ke^2/2r (rは原子殻核からの距離)であるため絶対値は大きい]ため、これを外側の電子殻あるいは原子外に移動させるにはより大きなエネルギーが必要になります。

 

内側の電子殻にある電子が電磁波や大きな運動エネルギーを持った荷電粒子に衝突されてエネルギーを与えられると、外側の電子殻に移ります。このとき原子は通常より高いエネルギーを持ち不安定な状態にあります。このことを励起といいます。また、このエネルギーがある値以上(これを束縛エネルギーと呼びます)になると電子は原子核の引力圏外に飛ばされ、電子と陽イオンに分かれます。これを電離といいます。

[光電効果]

 

光電効果とは、上の図において原子に電磁波であるエックス線を照射したとき、エックス線の光子が原子の原子核に近い電子にエネルギーを与えてこれを原子の外に飛び出させ、光子みずからはエネルギーを失って消滅する現象です。(光電効果の詳細についてはコラムを分けます。)

[特性X線]

 

光電効果の結果として内殻に空孔が生じます。先ほど述べたようにこの状態は不安定なため、安定した状態になろうと外側の殻から電子が移動しその空孔を埋めます。これを「緩和」といいます。

エネルギー準位の高い方から低い方へ電子が移動した結果、その差のエネルギーが余ります。このエネルギーは特性X線または外側の軌道の電子の放出(オージェ効果といいます)という形で放出されます。

特性X線は蛍光X線とも呼びます。蛍光X線の波長は元素毎に決まっています。蛍光エックス線のピークが出ている波長の場所でどの元素かということを定性し(定性分析)、ピークの高さでその元素が物質の中にどれぐらい含まれているかがわかります(定量分析)。蛍光X線を検出して元素を定性・定量するのが「蛍光X線分析」です。

[蛍光X線装置のスペクトル]

 

さて、蛍光X線装置を見るとざっくりですが、下の図のようなスペクトルが得られます。

以下ではこのスペクトルの見方をご説明させていただきます。

[制動X線]

 

まずはスペクトル下部のなだらかな部分が何かを見て行きましょう。結論から先に申しますと、これは「制動X線」のエネルギーが連続した波長に分布したものです。

エネルギーの高い電子が物質中に入って原子に近づくと軌道電子との間に働く電気の力(クーロン力)により反発し入射した電子は運動エネルギーの一部を失って進む方向を変えます。一方、軌道電子にはエネルギーが与えられ励起され一部は電離します。電離した原子はその空位に周りの自由電子を取り込むことで、また励起された原子は余ったエネルギーを放出し最終的には熱という形で物質に吸収され元の状態に戻ります。

 

ところがここで終わらず、電子が軌道電子をすり抜け原子核の近くまで達することがあります。原子核は陽子と中性子から構成されているため、マイナスの電荷を持つ電子とクーロン力で反発します。この時原子核は電子に比べて非常に重いので動きませんが、入射した電子の方は電場により減速され軌道を曲げられます。この際失ったエネルギーは電磁波の形で放出されます。この現象は、ちょうどブレーキを踏んだタイヤから出る煙のようだということで「制動放射」と呼ばれ、放出される電磁波を制動X線と呼びます。

制動X線の強度は入射光の波長に対して連続的に分布するため、左記のようなスペクトルが得られます。

[Kα線とKβ線]

つぎにKα線およびKβ線というのがありますが、これらはいずれも特性エックス線です。

 

以上に述べてきた説明でL殻からK殻に電子が移動した際に発生する特性X線をKα線、M殻からK殻に電子が移動した際に発生する特性X線をKβ線といいます。エネルギー準位の図を見ればわかりますが、MからKに移動する方がエネルギーは大きくなります。上のスペクトルで「Kβ線の方が小さいじゃないか」と思われる方もいるかもいれませんが(私も最初そう思いました)、E=hc/Λ(ラムダ)でありますので、エネルギー的には波長が短い方のあるKβ線の方が大きいですが、エックス線強度というのは「エックス線がどれだけ検出器に拾われたかを示す計数」のことですので、存在数はL殻からK殻に移動する電子の方によるエネルギーで生じたエックス線光子の方が多いことを示します。

 

上の模式図では描いていませんが、実際の装置でスペクトルにはLα線やLβ線も分析に使います。

実際にはLα1,Lα2,Lβ1,Lβ2等細分化されており、Kα線やKβ線のように単純にM殻からL殻に移動したもの、N殻からL殻に移動したものとは言いきれません。

■参考文献

・財団法人 電子科学研究所「エックス線の基礎─エックス線作業主任者講習会テキスト」

・メジカルビュー社「第一種放射線取扱主任者マスター・ノート」福士 政弘 編

・SKYRAY INSTRUMENT社提供資料

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